スタイリスト MAIKO KIMURA
モダンでミニマムな世界観。理路整然と筋道を立て物事を構成し、コミュニケーションする力。ネイティブ並みに英語を操り、インディペンデント誌『Union Magazine』ではエディターとしても活躍。ここ数年は、そこにサスティナブルな姿勢が加わる。
木村舞子はとにかく優等生だ。それなのに、人に全く威圧感を与えないどころか受け止め、纏うオーラはどこまでも柔らかく優しい。どんな人生を歩んできたら、こういう風になるのだろう。
期待通りの根性ある努力家
出身は、北海道中部にある層雲峡という観光地。2歳下の弟がいる、自他ともに認めるしっかり者の長女だ。エリア内には小学校しかなく、中学はバスで30分ほど行った町へ、高校は早々に親元を離れ親戚の住む旭川へ。「とにかく都会に出ていきたいという気持ちがありましたね。隙あらば少しでも、と(笑)。バリバリのファッション・キッズだったわけでもないのですが、たまたまテレビで観たスタイリストの仕事にはピンときて。高校を卒業して、バンタンデザイン研究所に入学しました」。専門学校時代に、師匠となる百々千晴さんのアシスタント募集の貼り紙を見て応募。19歳から7年半ほど専属アシスタントを務める。当時から“百々ちゃんにキム(*木村さんの愛称)あり”と誰もが認めるスーパーアシスタント。百々さんと直接話せないときは、とりあえずキムに電話しておけば安心だと思っていたのは、きっと私だけではないはずだ。
「ロンドンに留学していた師匠は英語が堪能で、外国人スタッフとも堂々とコミュニケーションをとる。仕事をする上で必要不可欠だと肌で感じ、私も独学で英語を学ぶようになりました」。アメリカ人との結婚も経て、今では留学経験がないなんて信じられないほど。以前木村さんに、英語を学ぶためにまずはどこからスタートすればいい?と聞いたことがある。『ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本』(幻冬社刊)を勧めてもらったのだが、至極シンプルに核心をつく内容に、ああ、この本の中身もなんだか木村さんっぽいな、と感じたのだった。
仕事と服と<ララガン>と
勉強熱心なのは、もちろん仕事に関しても。誰よりも足繁く展示会へ通い、実際に商品を目で見てお眼鏡にかなうアイテムをストック、企画ごとにそれらを的確に提案してくれる職人気質だ。「自分のエッセンスは加えますが、クライアントが何を目標としているのかを重視します。私たちはアーティストなわけではない。まずお題があって、それを表現するクリエイターとして雇われている。個性だけを全面に出すのは違うなと」。自身はいつだってシックなモノトーンの装い。「顔がぼんやりしている(笑)ので、パリッと締まる黒がついつい多くなります。あとは、自分の身の丈にあっているかどうか。どんなに素敵だったとしても、物自体が持っている空気と自分がマッチしていなければ欲しいとは思いません」。木村さんが選ぶモノトーンは単なるベーシックではない。コットンやシルクなど美しい天然素材で、そこに気の利いたデザインがあり、上質な縫製があり、ブランドとしてのアイデンティティをしっかり感じるもの。これは、彼女が<ララガン>に惹かれる理由にもそのまま通じる。「ひとつの女性像を表現している気がするんです。以前、好きなブランドのデザイナーが『私たちは服を売っているのではなく、センスを共有している』と話すインタビュー記事にとても共感したのですが、<ララガン>にも同じことを感じます。ジュエリーを通して、こういう人って素敵だよね、自由でいるって楽しいよね、といった価値観を見せてくれる。それがとても魅力的です」。いつの時代に身につけたとしても、変わらず愛おしいと思えるもの。消費するのではなく、いつしか人生の一部となってゆくもの。そういった考え方にも木村さんの美学を垣間見る。
健康オタクから環境問題へ
コロナが蔓延しはじめた2020年、雑誌『GINZA』のWEBで『サステイナブルライフへの道』という連載をスタート。「環境問題がどうこうという前に、自分自身がかなりのアレルギー体質。数年前それが悪化して、身体全体に蕁麻疹ができたことがあって。薬で抑えたとしてもそれは一時的なものだから、体質改善するしかないな、と元来の健康オタク気質を発揮してあらゆる本を読み漁り、詳しい人から話を聞き、とにかく調べまくりました。そこで、結局重要なのは“食べるもの”なんだな、と。当たり前のことですが、食べもので体はつくられているので」。菜食に移行したことにより、家畜が出すメタンガスや排泄物による汚染、広大な土地の開墾、安さと効率を求めて生産過多になっている畜産業の現状についての危機感へと思考は広がっていく。また、命の繋がりや生態系を無視した食に対する人間の欲望には静かな怒りを滲ませる。「全てをサステイナブルに切り替えることはなかなか難しいけれど、日々できることから始めようと思っています。自分自身の生活もそうですが、『GINZA』での連載やクライアントとの話し合いの中でも。本当に微々たる力ですが、世の中によりベターな選択肢を提示することができたら嬉しいですね」。
しなやかに、鮮やかに、心にはスローガンを
インタビューも終盤、突如デザイナーの高橋れいみさんが「舞子さんのミューズって誰ですか?」と質問すると「パティ・スミスです」と即答。「高校生の頃、メッセージ性の強いパンクを力強く歌い上げる姿を見て以来ずっと憧れです。70年代のNYならではの経験や苦労をしていて、だからこそ揺るがないマイ・スタイルがある。詩人や作家として活躍する知性にも惹かれます」。最初こそ予想外な答えに驚いた一同は、徐々に納得する。そうか、木村さんの心にはいつだってパティ・スミスがいたのか。
地球が抱える問題からファッションを選ぶ視点、クライアントや周囲の人への気配り。対象の大小は関係なく、愛情深く、真っ直ぐで、かつ情熱的。知識と経験を結びつけ、自分で人生を切り開く芯のある女性。れいみさんは、「ご自身はもちろん無意識でしょうが、愛他主義な人であると感じました」と話す。
木村舞子とパティ・スミスが頭の中でクロスオーバーしたとき、彼女らしさのヒントに触れた気がして妙にすっきりしたのだった。
愛を注ぐ存在が、日々を豊かに
「単純に可愛いといいのもそうだけど、見返りなんて全く必要ない、とにかく彼が喜ぶことはなんでもしてあげたい(笑)! 子育てと一緒でしょうか。無償の愛ってこういうことなんだと初めて実感した気がします」。1年半前に縁あって家族となった保護犬のヤマト。大人しく、ビビリな性格は相変わらずだが、徐々に“自分の家”に馴染み、木村さんの生活をしあわせに彩っている。
MAIKO KIMURA / 木村舞子
スタイリスト。百々千晴氏に師事し、独立。雑誌、広告等で活躍中。Union Magazineではエディターとしても活躍する。
https://www.maikokimura.com
Photography_DAEHYUN IM
Interview & Text_KANAKO UCHIDA