HOOKED VINTAGEオーナー KOYO ANDO
「HOOKED VINTAGE」の扉を開けると、前にお店へ来たときの小葉さんとの会話やそのときの情景がじわじわと頭に浮かび上がる。例えるなら、大好きな映画で流れていたサウンドトラックを耳にすると、その映画のワンシーンを思い出すような、そんな感覚にどこか近いなと思う。心地よい声と、ほどよい距離感、そしてフラットさ。淡々としながらも温かくて柔らかい。小葉さんだからこそ生まれるリズムや、そのバランスに惚れ惚れとしてしまうのは私だけではないはずだ。
頭のなかに憧れを抱くのではなく、等身大の自分を見つめる
出身は、宮城県の石巻市で、4人兄妹の3番目として生まれた小葉さん。父はトレンチコートを仕立てにロンドンへ行ったり、オーダーメイドでスーツを作るような人で、大の洋服好き。母は躾が厳しく、TPOやマナーを重んじるタイプ。子どもに対しても現実的な視点をくれる人だったという。
「大人に憧れている子どもでした。母の躾の影響もあるかもしれませんが、大人が自由に服を纏えるのが羨ましくて。服が好きだと意識してきたことがあまりないのですが、子どもの頃は、父のクローゼットから、買ったばかりの服を見つけて着てみたり、母のジュエリーをいじってみたり。家で遊ぶとなったら、妹を着せ替え人形のようにスタイリングして。今思うと、ファッションや装いは、ずっと自分の近くにあったものなんだなと思います」
学生の頃に好きだったものを聞くと、「ウエスタンシャツ」と即答。アイテムに対して、どの部分に惹かれていたのか直接的な理由はないものの、さまざまなデザインのウエスタンシャツを少しずつ集めていたそう。土地柄ゆえ、古着屋が多い場所だったのもあるかもしれない。
「ファッションに対して、強いこだわりを持っていたわけではありません。ただ、自分がいいと思うものに対してブレない部分があったとは思います。子どものころはキャラクターもののアイテムを身につけてきませんでしたし、学生のころは周りの友人が短めのスカート、ルーズソックスにローファーという組み合わせというのにも関わらず、私は普通丈のスカート、メンズソックスにコンバースという出立ちでした。アイテムの好みもありますが、自分のムードや骨格に合わないから選ばなかったというのが大きかったかもしれないですね」
幼い頃からずっと、母からよく「身の丈に合うものを」と、言われていた小葉さん。自身の容姿やスタイルにマッチするものを選ぶことが自然な感覚だった。
「これまで誰かに憧れたり、ミューズみたいな存在がいたことがないんです。ずっと、私は私でしかないと思っていました。同じ人なんて居ないし、誰かになることはできないと。ある意味でそれは諦めでもあるのかもしれませんが、まずは自分を知ることが大前提としてあったんです。これは母が教えてくれたことでもあります」
自分自身にも、人に対しても慣れたくない
東京に上京後は、パートナーである安藤公祐さんの実姉、内田文郁さんと内田斉さんがオープンした中目黒の古着屋「ジャンティーク」で、接客やバイイングなどの仕事に12年ほど携わり、2017年に公祐さんと独立。「HOOKED VINTAGE」をスタートさせた。店内は主に公祐さんがセレクトするインテリアや食器、小葉さんがセレクトするアパレルや、ジュエリーで構成される。
「バイイングするとき、今回はこういう風にしたという志は持っていきますが、現地に行かないとどんなものに出会えるのかわからないので、買い付けしながら考えていくことが多いですね。けど、『このアイテムがないから買い足そう』『これは売れそうだから買っておこう』という基準では選ばないようにしています。お店に来てくれるお客さんをずっと尊敬し続けているからこそ、そこは大切にしている部分です」
「HOOKED VINTAGE」が自身にとってどういう場所かを聞くと、一番に出たのがお客さんに対しての言葉だった。
「ありきたりなんですが、ここで皆さんにお会いすることができて、幸せです。本当にそうとしか言いようがないんですよ。自分を表現する場所とか言いたいですけど、やっぱり人に会える場所だということが根本的にありますね。来てくれた人みんなが、スッキリした気持ちで帰ってくれるといいなって」
小葉さんの話を聞いていると、幼い頃から、自身のなかでピンっと一本の軸が立っているなと思う。「強くありたい」と、小葉さんは話すが、それは言葉として表面的に見る“強さ”から連想するものではなくて、地に足が着いているというか、なによりも自分自身のことを信じているというか。一歩一歩、しっかりとここまで歩いて来たんだなと思わせる。そこに小葉さんの強さがあるように感じる。
「慣れを持ちすぎないようにしています。自分を把握しすぎてしまうのが怖いことだなと思っていて、違う自分にいつも会い続けたいんです。『私はこれ苦手だもんな』『これはきっとこう考えちゃうな』と、自分で変えられる可能性があることなのに、ただ自分のなかで思っているだけのことだから、頭が固くならないようにしたいなって。それは友人や周りの人に対してもそうで、その人のことをわかった気でいないようにしていますね」
小葉さんが今回のインタビューで繰り返し話していたのは、「自分は自分であること」。最後に、人生を終えるまでにしたいことを聞いたら、「あー楽しかった、と思って死を迎えるのが目標」と答えが返ってきた。そんなところに、また小葉さんらしさを感じる。
「同じ景色を見て、それぞれ捉え方が違うように、全く同じものってないと思うんです。みんな声も身長も、生まれも違うので、似合うものが同じなわけがない。お客さんも、それぞれの好みや、似合うものが緻密に違うから、そこがおもしろい部分。だからこそ、私はヴィンテージが好きなのかもしれません」
ジュエリーは身体の一部
小葉さんがつけているピアスは、ララガンの「TINY TINY PUFFY HOOPS」。お風呂に入る時も、寝るときも肌身離さずつけている。ずっとつけていたいからと、耳から取れないようにろう付けをできるのかと相談したこともあるという。小葉さん曰く、ジュエリーは身体の一部。
「ララガンは、毎回違いすぎる視点がおもしろいなと思います。コレクションによっては、本当にれいみさんが作ったの?と、思わせる部分が魅力ですね。れいみさんって、シーズンごとに違う人が乗り移るような気がしていて。例えば、眼鏡屋さんでレンズを作るときに、左目と右目で、それぞれの目でレンズの厚さや角度を調整していくじゃないですか。例えるなら、そんな感覚に近いなと思っていて、今回は左目は使わないけど、右目で見てみようみたいな、不思議な角度が好きなところです。一言でれいみさんを語れませんが、とても柔軟で、機知に富んだユーモアがある人。これまでいろんな物事や、人と接してきたんだろうなと思わせる、フラットな目線が好きです」
ずっと心に寄り添い続けている本たち
私の人生を変えたものを聞くと小葉さんがあげたのは「本」。話すときの言葉選びに、聡明さとしなやかさがあるなと感じていたので、この答えを聞いたとき、「やっぱりそうだよな」と腑に落ちた。
「小学生から高校生まで、図書館の本を全部読みたい!と無理な事を思いつつ、かじりついていました。何度も読んで処分しては、また買って読み返す作家さんたちです」
KOYO ANDO / 安藤小葉
中目黒のヴィンテージショップ〈ジャンティーク〉のショップスタッフとバイヤーを経験した後、2017年にヴィンテージの洋服、家具、雑貨を取り扱うHOOKED VINTAGEをオープン。渋谷と表参道の中間に位置するオフィス街にありながら、足繁く通うクリエイターのファンも多い。
hooked.jp
Photography_DAEHYUN IM
Interview&Text_FUMIKA OGURA