SEEALLデザイナー MASATO SEGAWA
生活者として生きる
初めてお見かけした時、その泰然としたあり方にうっすら肥沃な大地を思い浮かべた。
ブランドの活動としてだけでなく、その暮らしぶりで知る人もいると思う。
音楽への傾倒とワインや食への興味、自然農や美しい庭への愛情から見る土との近さ。嗜みが多方面に深いひとの、断片を覗く。
ファッションブランド「SEEALL」のデザイナー、瀬川誠人さん。清澄白河にあるアトリエの一部をギャラリーショップ「FAAR」として開放し、自身のつくる衣服とセレクトしたブランドを少し、そして新進作家の工芸やヴィンテージの器など、その眼で選び取ったものを並べている。その中にはララガンのジュエリーもある。

人との間にある美しさ
美しいと思うのは、「不安定で、間(あわい)にあるもの」。若い頃は、有無を言わさぬ強烈な個を発信するアートの美しさにしびれ、強く惹かれていた。けれど時が経ち、心に大切に抱いていたアーティストの作品を最近見た時、かつてほどには自分に響かないことに気づいた。
今は、より相互的なものに惹かれる。
「作家がぽんと投げて、そこに落ちたものをみんなが見る。あのようにも、このようにも見ることができて、作家自身もそれを享受する。例えば、ソフィ・カル。不安定で曖昧なところにあるものが、今の自分にとっての美しさ」
きっと、変わったのは、自分。社会の中でものづくりをしながら、人がいなくては成り立たないところで生きているから、必然的にそうなったのかもしれない、と言う。
ものづくりにおいて追求する美しさも、「自分のデザイン」を強烈に印象付けるというよりは、社会の中で、生活の中で、心地よくなじみながら、にじむ美しさ。
「自分はあくまで生活者だと思っていて、生活の道具をつくっている、という感覚。デザインするというより、職人との間に立って、編集する。道具として手に取れる価格と使いやすさに落とし込む。FAARでの工芸やヴィンテージの紹介も、道具として。こういう美しいものを日常的にしたい、という思い」
この言葉に、今の瀬川さんの大切な芯が詰まっていた。

固く閉まった扉が開かないなら、僕が常に開いている窓をつくる
コレクションを「エディション」と呼び、毎回、インスピレーションとして映画やアートなどの題材を並べる。例えば2025SSコレクションでは、鴨居玲、ビアンカ・ジャガー、そしてDOWN BY LAW。それは、瀬川さん流の、小さな仕掛け。
「そのニュアンスをコレクションがまとうことによって、誰かが興味を広げるきっかけになれば嬉しい。何かを始める時って、入り口を探すのが難しいことがあるけど、ファッションのいいところは、アートや音楽、映画など、全部とつながるハブになれること。ドアが閉まっていて、どうやって開けたらいいかわからないなら、僕が常に開いている窓をつくろうと思う」
そんなふうに今、瀬川さんは「伝える作業」を大切にしている。その中には「職人さんのつくるものや工芸の良さを、いい形で変換させて伝えていく」という意思もある。だからテキスタイルを国内外のつくり手と丁寧につくり、「FAAR」で工芸の作家と組む時には、「B面を見せてください」と売れ線ではなくチャレンジを歓迎する。
瀬川さんは、京友禅の絵師の家で生まれ育った。技を磨き、美しさと向き合う父の姿。その世界の厳しさゆえか、父からは継げと言われなかったし、自分は継がなかった。絵師としての家業が、先代で途絶えた。
「僕はそのとき何もできなかったので」
その言葉の重み。父も生きていたら、今なら、「SEEALL」の中に違う形で入れられたのではないか。あの美しさが、高価な着物としてではなく、生活の道具のために生きる道もつくれたかもしれない、という思いが、瀬川さんの傍にはずっとある。
CURIOSITYは全くすり減らない
瀬川さんはララガンの「CURIOSITY」ネックレスを愛用している。
「自分の人生はCURIOSITY(好奇心)そのもの。49歳になって、身体の代謝も下がりまくって、記憶力も失われてすごく老化を感じるけど、CURIOSITYだけは研ぎ澄まされてる」と笑う。
京都のハードコアパンク漬け小学生発、モッズスーツを決め込むティーンネイジャー経由ジャズ行き。映画一日10本の半ば引きこもり大学生は、ロンドンへ留学。そのまま恋人を追いかけてイタリアへ。イタリアには縁あって15年過ごすことになる。幼い頃から濃密で多様な文化のシャワーを浴びつつける傍ら、勉学も怠らなかったと言うからそんな瀬川少年は実在するのか疑いたくなる。
「子供の頃から何かに興味を持つと俯瞰で潜りたくなる。学校の勉強も面白かったですよ。音楽も好きだったけど、自分はLOVERでいたい。そのためには仕事も含めちゃんと自分の生きる道をつくらないと、と若い頃から現実的でしたね」
まさかの成熟。それは、伝統工芸の家系で日常を生きていたからこそ養われた感覚かもしれない。
好奇心が向ける視線の先は、例えばコンビニの新商品やテレビドラマにも及ぶ。
「興味のないところにもいろんな世の中がある。世俗こそものづくりの相手ですから。世俗を知らずにものづくりはできないし、あくまでリアルでいたい」

声高に言わない抵抗
抑制の効いたムードの内側に、瀬川さんのたどったカルチャーの幅広さが彩りに満ちていて楽しい。均衡と相反、という対義語が頭に浮かぶ。
「それは大好きな概念ですね。対義語のようだけど、互いが互いを内包している感じで。例えれば、城のお堀みたいなこと。石が積み上がり、きれいな曲線を描いていても、実は一つひとつの石は不均一でいびつ。だからこそ緻密にかみ合って、強く均衡の取れた美しい構造になる。それと同じで、自分の中ではがちゃがちゃした不均一なものが連なっている。きれいなものをつくろうと意識する一方で、生活では壊れたもののほうが好きですし」
「コレクションを見ると、外しのアプローチが瀬川さんらしい。反逆心が、ありますよね」とれいみさん。
瀬川さんもそれを引き取って、「まさに。実はいびつなパンクなものが根底にはあって」と続ける。
「王道の美しさではないもののかっこよさ、壊れているもののかっこよさ。そのぶつけ方、混ぜ込み方。ファッションの業界に対して、ものづくりに関して、今こういうことをぶつけたいというものが、静かに織り込まれるようにしている。声高に言わない抵抗みたいなもの。それが自分の中でのパンク」
感じるか感じないかぐらいのささやかさで、つくるものに反映させていく。
愛すべき頑固者
ララガンをつくるれいみさんは、瀬川さんから見れば「愛すべき頑固者」。
「僕と同じでたぶん、普段は人に何かを求めるのが苦手。でも、ものづくりは、そんな自分たちが一番わがままでいられること。自分で決めた及第点に到達するまでは、誰に何を言われても、違う、と言い続ける。その芯の揺るがなさ、折り合いをつけるポイントが僕らは似ている気がする」と瀬川さんは共感を込めて話す。
そうして生まれるララガンのジュエリーは、「本質的で澄んでいる」。自身の興味をなぞるインスピレーションを一度フィルタリングして抽出した、混じりけのない造形。そして何より「職人性をすごく大事にして、道具としてのクオリティが担保されている」ことは、瀬川さんの大切にする部分と重なる。

自分の手を動かして、知っていく
「今朝、古民家を買ったんです」
死ぬまでにやりたいことは、という問いに、前のめりな目標が返ってきた。築120年ほどの古民家を、自身の手で修復しながら現代のエッセンスを入れた空間をつくるのだという。
「自分の手を動かしてゼロから十までつくりたい。どんなふうにできているのか、学びながら直していく。研鑽を積めたらいいなと思う」
古民家の修復に先がけて、すでに自分の手を動かしているのが、自然農。鎌と鍬のたった二つの道具で成立させる農業を、「先生に教わって実践している」という。手に入れた時、「ここから始まる」と高揚した二つの道具は、ただ使いやすいようにとつくられた、装飾のないもの。メンテナンスしやすく、安価。
「ごく普通で、それが僕には美しい。なんでもできる機械を手に入れてつくるより、制限の中で自分がどう向き合うか、というところが、いい」
道具との付き合いは、自分のものづくりにもリンクする。
「自由にやっていいと言われると意外とできない。制限の中で、どう折り合いをつけてやるか、という時に、美しいものが生み出されるという感覚があるので。鎌と鍬は、すごくクリエイティブ」
物事の成り立ちと根源に興味があり、吸収し続けてきたひと。思い切り遊んできたのだろう余裕とお茶目。生活において研鑽を積むという言葉が出ても、それはきっと瀬川さんの最大の遊び。力みのない魂は、たくましくて、朗らかで、美しい。
MASATO SEGAWA / 瀬川誠人
ファッションブランド「SEEALL」オーナーデザイナー。大学時代にロンドンに留学して3年、後にイタリアで15年を過ごす。イタリアでは5年間ブランドのディレクションを行い、帰国後の2019年に自身のブランド「SEEALL」を立ち上げる。国内外の職人と共に丁寧に生地づくりを進め、衣服に仕立てる。オフィスの一部をショップ「FAAR」として開放し、「SEEALL」と共にセレクトの衣服、新進の工芸作家からヴィンテージの器などをジャンルレスに並べる。
@faar_tokyo
seeall.jp
Photography_DAEHYUN IM
Interview&Text_YUKO MORI